親指にまつわる「死」の迷信

「霊柩車を見たら親指を隠す」
そんな言い伝えが日本各地にあります。
親指を隠さないと親の死に目に会えないとか、親が早死にするとか、自分が親より先に逝くとか、伝承内容はさまざまですが、「聞いたことがある」と頷く人は少なくありません。

霊柩車
霊柩車は、ご遺体を運ぶ車ですから言うに及ばず「死」を連想させます。
死にはケガレの概念がありますが、これは忌み嫌う「穢れ」のほか、気が滅入ってしまう「気枯れ」、また霊が離れていくという「気離れ」であるという説があります。

昔は衛生面も良くなかったでしょうから、伝染病の不安もあったでしょう。
また、看病疲れで身も心も滅入ってしまっている家族もいたことでしょう。

そのため避けたほうが良いという意識が自然と働いたのだと思います。

「親指を隠す」という言い伝えがいつ、どこから言われ始めたのは定かではありませんが、霊柩車が登場する以前から「葬列や葬儀の場面に遭遇したら、親指を隠す」という迷信はすでにあったと言われています。

親指は災いが入り込んでくる場所とも

なぜ親指を隠すことになったのでしょう。
「親」という語呂に合わせてという考え方もありますが、親指は切り傷など傷を負いやすい指だったことから、ケガレや災いが入り込んでくる場所と考えられていたようです。

「夜に爪を言ってはいけない」という風習も、月明かりや星明かりを頼りに爪を切ると、手元が狂ってケガをしてしまう。ケガは感染症のリスクが高まり、場合によっては命取りになるかもしれない、という不安から。
だから昔は葬儀だけではなく暗い夜道を歩くときなども、親指を隠していたという伝承が遺されています。

「野犬に吠えつかれた時は親指を隠す」という言い伝えもそこからきています。

霊柩車は縁起がいいという説も

一方で、「霊柩車を見ると吉報がくる」という説もあります。
これは易学によるものといわれ、「陽極まれば陰生じ、陰極まれば陽生ず」からきているものだとか。
「浜辺で水死体を見ると、大漁み恵まれる」という言い伝えのある漁村もあるそうです。
真実かどうかはわかりませんが、
つまり「良いこともあれば悪いこともある。すべての事象を総合的にみるとプラスマイナスゼロになる」
という考え方なのでしょう。
もしくは忌み嫌いのではなく、死を尊厳のあるものとして捉えていきたいというあらわれなのかもしれません。