「葬儀は不要」「お墓はいらない」の遺言書
近年の終活ブームもあり、「遺言の書き方」「エンディングノートの書き方」など、自分の思いを整理して遺すことを目的としたセミナーが増えています。
特に行政書士、司法書士、税理士等の士業が開催するセミナーでは、「相続」と「遺言」がセットになった講座がよくみられます。

遺言は「ゆいごん」と世間一般に言われていますが、法律上の遺言は「いごん」と読みます。
相続に関するルールは、民法で相続人となる順位や、それぞれが相続する遺産の割合など細かく規定されています。

しかし、相続が発生した時、被相続人(亡くなった人)が遺言を残していた場合には、民法のルールよりも遺言の内容が優先されますので、「相続」と「遺言」がセットで語られるわけです。

相続で揉めないための終活準備として「遺言」

2015年1月施行の相続税法改正、そして今年2019年7月施行の相続法改正により、相続対策が身近な話題となっています。
相続が発生すると、「預貯金」「有価証券」のほか、分割しにくい「土地」「建物」「高価な絵画」「骨董品」等の分割を、法定相続人による遺産分割協議の上、それぞれの相続分が決定します。

遺産分割協議では、分割しやすい遺産が多くある場合には、それほど難航することはないのですが、不動産など分割できない財産が多い場合は、話し合いが丸く収まらず、争いに発展してしまうケースも少なくありません。
これがテレビ等でよく見聞きする「骨肉の争い」の火種になるわけですね。

司法統計によると、遺産分割事件のうち、認容・調停成立件数を遺産の価格別でみてみると5000万円以下が約76%を占めています。
つまり、遺産分割のトラブルは、遺産額が5000万円以下の場合が多いということになります。

遺産分割事件遺産額別件数

財産が絡むと、円満な関係であった親族でも「争族」になる可能性が高くなります。遺産分割協議が争族にならないように事前に考えておく一つの方法が「遺言」です。

遺言書のメリット

遺言書は、自分が築いた財産を、自分が考えるとおりに相続させたいと意思表示する文書で、法律上効力があるものです。生前に、口頭で人に伝えたりエンディングノートに詳細を書いていたとしても、それは法律上効力のあるものではありませんから、実行するためには意思を遺言書として残しておく必要があります。

具体的に遺言書にはどんなメリットがあるのでしょうか?

  • 希望どおりに遺産を分けることができる
  • 遺産分割の手続きが不要になる
  • 遺言執行者をつけることで、相続手続きがスムーズにできる

特に、このような方は、遺言書をつくっておくことをおすすめします。

  • 遺産の大半が不動産など分割しづらい財産の場合
  • 相続人の間で揉めてしまう可能性がある場合
  • 相続税の申告が必要な場合
  • 相続人の人数が多い場合
  • 離婚、再婚などで法定相続人が複雑な場合
  • 子供がいない場合
  • 相続人に障害者や認知症高齢者がいる場合
  • 連絡のとれない相続人がいる場合
  • 第三者に遺産を遺贈したい場合

民法大改正!自筆遺言の方式要件が緩和

平成30年7月6日、民法及び家事事件手続き法の一部を改正する法律が成立し、同年7月13日に公布されました。
いわゆる「改正相続法(改正民法)」と言われるもので、約40年ぶりの大改正とあって、「民法大改正」と称してメディアで頻繁に取り上げられています。

民法大改正のうち先行して行われたのが自筆証書方式要件緩和(平成30年1月13日施行)でした。
遺言といえば、自分で書いて保管する「自筆証書遺言」と公正証書として遺す「公正証書遺言」、内容を秘密にしたまま存在のみを証明してもらう「秘密遺言」がありますが、遺言者の真意を確実に実行する必要があるため「公正証書遺言」が推奨されてきました。

これまでの自筆証書遺言では、遺言者が自ら全文手書きし、日付及び氏名を自書する必要がありました。
パソコン等で作成した文書では法的に無効となっていたのです。
しかし、今回の改正民法では、自筆証書遺言については、以下の定めが新設されています。

「前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。
この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、 印を押さなければならない。」

つまり、預貯金口座や不動産等の「目録」については、手書きではなくても署名・押印があればOKということです。
目録の書式は自由で、遺言者本人がパソコンで作成しても良いですし、遺言者以外の人が作成することもできます。
土地については不動産の登記事項証明書を財産目録として添付することや、預貯金については通帳のコピーを添付することもできます。

法務省 「自筆証書遺言に関するルールが変わります」

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号。平成30年7月6日成立。)のうち自筆証書方式要件の緩和に関する部分が,平成31年1月13日に施行されます。同日以降に自筆証書遺言をする場合には,新しい方式に従って遺言書を作成することができるようになります。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00240.html

また、現行法では、自筆証書遺言を公的機関で保管する制度はありませんでしたが、今回の改正によって自筆証書遺言を法務局で保管することができるようになります。
これによって、今まで問題となっていた自筆証書遺言でも以下のようにこれまでの心配事が解消されるようになります。

  • 「遺言書の紛失や破棄の心配がない」
  • 「形式不備で無効になる心配がない」
  • 「検認不要ですぐに相続手続きに入れる」

確実性という意味で公正証書の優位は変わりませんが、これまでと比較すると、より気軽に自筆証書遺言を作成することができるようになったのは大きな前進です。

葬儀の希望、お墓の希望は遺言書に書ける?

遺言書にはさまざまなことを書いて遺すことができますが、法的な効力を発揮する項目は限られています。
具体的には次のような項目です。

法的な効力が発揮する遺言書の内容

財産に関すること
相続分や遺産分割方法の指定、遺贈、寄付や一般財団法人の設立、信託の設定
身分に関すること
子供の認知、未成年後見人の指定、推定相続人の廃除
遺言執行に関すること
遺言執行者の指定
その他
祭祀承継者の指定、生命保険受取人の指定

例えば「家族で仲良く暮らしてほしい」「自分の死後は、ペットの世話をよろしく」などは遺言事項ではなく、法的な効力はありませんが、付言事項として記すことができます。
葬儀やお墓の希望についても同様で、強制力のある項目ではないので、どんなに詳細に記しても実行されるとは限りません。
臓器提供や献体の希望、尊厳死や延命治療なども付言事項に書くことはできますが、強制されるものではありません。

では、葬儀やお墓の希望は全く考慮されないかというとそうではありません。

遺言項目には「祭祀承継者の指定」があります

「祭祀承継者の指定」とは、葬儀の喪主、遺骨を管理する人、お墓を継ぐ人、位牌を守る人等、祭祀に関する承継者をあらかじめ指定しおくことができる項目です。
祭祀承継者は原則1人しか指定できません。その人に葬儀やお墓の希望を伝え、一連の葬送儀礼を託しておくことで、自分の希望や思いをかなえられる可能性が高まります。

祭祀承継者を指定されたら、断ることはできませんが、祭祀・供養を絶対にしなければいけないというわけではなく、簡素にする、もしくはしないという選択肢も可です。
例えば祭祀承継者として檀家としての地位を承継することになったら、檀家としての役割を果たす義務はありますが、檀家を辞める選択肢も考えられるわけです。

相続というと、どうしても財産だけクローズアップされがちですが、祖先の祀り、供養、葬送儀礼も承継するものです。
「相続」「遺言書」の話題が出たら、ぜひ祭祀承継・供養についてはどう次世代へ引き継いでいくか、家族間でぜひ考えてみてください。